細菌性髄膜炎は、肺炎球菌などの細菌が、脳や脊髄(せきずい)を包む髄膜(ずいまく)の奥まで入り込んで起こる病気です。診断がむずかしく、抗菌薬などの薬が効きにくいときがあり、また、ときに命にかかわったり、重い後遺症が残ったりするため予防すべき怖い病気と考えられています。
そのため、細菌性髄膜炎はかかる前にワクチンを接種して、予防することが大切になります。

細菌性髄膜炎ってどんな病気?

細菌性髄膜炎(さいきんせいずいまくえん)とは、ヒブ[インフルエンザ菌b型:Hib]や肺炎球菌(はいえんきゅうきん)などの細菌が、脳や脊髄(せきずい)を包む髄膜(ずいまく)の奥まで入り込んで起こる病気です1)

細菌性髄膜炎ってどんな病気

細菌性髄膜炎に罹ると命にかかわったり、重い後遺症が残ったりすることもあります1,2)
細菌性髄膜炎を予防するワクチン[ヒブワクチン、肺炎球菌結合型ワクチン]の普及前の日本では、毎年約1,000人の子どもが細菌性髄膜炎にかかっていました3)

1)日本小児科学会:日本小児科学会の「知っておきたいわくちん情報」各論No.10-19,22 2018年3月-2020年10月作成・改訂
http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/VIS_B-02haienkyukin_202312.pdf 2023/08/15参照
2)国立感染症研究所:細菌性髄膜炎とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/404-bac-megingitis.html 2023/08/15参照
3)「細菌性髄膜炎診療ガイドライン」作成委員会編集:細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014(日本神経学会,日本神経治療学会,日本神経感染症学会監修),2014,南江堂

細菌性髄膜炎になるとどんな症状が現れるの?

残念ながら、細菌性髄膜炎とはっきり見分けられる特別な症状はありません。
しかし、次のような症状がみられた場合、細菌性髄膜炎の可能性も考えられることから、すぐにかかりつけの先生にみてもらうことが大切です。

もしかして? こんな症状は要注意

もしかして? こんな症状は要注意

細菌性髄膜炎の可能性のある症状:急な発熱[高熱]、泣き止まない・きげんが悪い、意識がもうろうとしている、ぐったりしている、けいれん、吐く・食べない・飲まないなど

細菌性髄膜炎を最も発症しやすい年齢は?

細菌性髄膜炎にもっともかかりやすいのは、病気とたたかう力[免疫力]がまだ未熟な生後6か月から2歳くらいまでの小さな子どもです。細菌性髄膜炎は年齢とともにかかりにくくなりますが、5歳ごろまではかかる危険性がある年齢といえます4)
肺炎球菌による細菌性髄膜炎にかかった子どものうち、約70%がもっとも免疫力の弱い0歳児のため、早めの予防がのぞまれます。また、細菌性髄膜炎は5歳を過ぎるとかかりにくくなりますが、肺炎球菌が原因の場合は5歳以上でもかかる例があります。

4)「細菌性髄膜炎診療ガイドライン」作成委員会編集:細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014(日本神経学会,日本神経治療学会,日本神経感染症学会監修),2014,南江堂

細菌性髄膜炎を発症する主な原因は?

細菌性髄膜炎を発症する主な原因菌としては、B群溶レン菌(GBS)、肺炎球菌、大腸菌、ブドウ球菌、インフルエンザ菌などがあります。
肺炎球菌は、原因菌の中で2番目に多い、20%を占めています5)
原因菌が様々ありますが、より重症になりやすいのは肺炎球菌による髄膜炎で、命を落としたり重い後遺症が残ったりすることがあります6)

細菌性髄膜炎を発症する主な原因

細菌性髄膜炎を発症する主な原因

5)松原康策:臨床と微生物 Vol.50 No.3:213-220、2023
6)「細菌性髄膜炎診療ガイドライン」作成委員会編集:細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014(日本神経学会,日本神経治療学会,日本神経感染症学会監修),2014,南江堂

細菌性髄膜炎はどうして怖いの?

細菌性髄膜炎は、発症しても、早い段階で細菌性髄膜炎と診断することがむずかしく、また、かかると治療も困難で重症化しやすいためです。
以下に、細菌性髄膜炎が怖い理由をまとめました。

〈細菌性髄膜炎が怖い理由1〉早い段階で診断がつきづらい
細菌性髄膜炎の始まりは、熱が出たり吐いたりなどカゼの症状との区別がむずかしいため、病気の発見がおくれることがあります。診断がついたときにはかなり病気が進行してしまっているということも少なくありません。

〈細菌性髄膜炎が怖い理由2〉治療がむずかしい
最近では、菌をやっつけるための薬[抗菌薬]が効きにくくなっている菌[耐性菌]が増えてしまっているため、治療のための薬がうまく効かないケースもあります。また髄液(ずいえき)や脳はからだの奥のほうにあるので、もともと薬がうまく届きにくいのです。

〈細菌性髄膜炎が怖い理由3〉命にかかわることがある
細菌性髄膜炎にかかると重症化することが多く、最善の治療をつくしてもときには命を落としてしまうことも7)。なかには、発熱してからわずか1日以内で命を落とす例もあります8)

〈細菌性髄膜炎が怖い理由4〉重い障害が残りやすい
細菌性髄膜炎にかかると、知能障害や難聴、てんかん発作などの重い後遺症が残ってしまうことがあります7)

7)「細菌性髄膜炎診療ガイドライン」作成委員会編集:細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014(日本神経学会,日本神経治療学会,日本神経感染症学会監修),2014,南江堂
8)World Health Organization:Meningitis 17 April 2023
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/meningitis 2023/08/21参照

細菌性髄膜炎を予防する方法は?

細菌性髄膜炎を発症する主な原因菌のうち、ヒブ[インフルエンザ菌b型:Hib]と肺炎球菌には、感染を予防するためのワクチンがあります。
どちらの菌に感染して細菌性髄膜炎にかかるかわからないため、両方のワクチンを接種して予防することが大切です。
細菌性髄膜炎を予防する「ヒブワクチン(5種混合ワクチン)」と「肺炎球菌結合型ワクチン」はどちらも生後2か月から接種することができ、医師が必要と認めた場合には同時接種も可能です。

細菌性髄膜炎に関するQ&A

監修:東京医科大学 微生物学分野 兼任教授 岩田 敏 先生

  • Q. 細菌性髄膜炎ってどんな病気?

    A. 細菌性髄膜炎は、ヒブ[インフルエンザ菌b型:Hib]や肺炎球菌などの細菌が、脳や脊髄(せきずい)を包む髄膜(ずいまく)の奥まで入りこんでおこる病気です1,2)。 ヒブワクチンや肺炎球菌結合型ワクチンが普及する前の日本では、毎年約1,000人の子どもが細菌性髄膜炎にかかっているといわれていました3)。 細菌性髄膜炎にかかると、命にかかわったり、重い後遺症が残ったりすることもあります1,2)

  • Q. 細菌性髄膜炎の原因は?

    A. 細菌性髄膜炎の原因菌には、インフルエンザ菌(ヒブ)、肺炎球菌、B群溶レン菌、大腸菌などがあります。
    ヒブワクチンや肺炎球菌結合型ワクチンが普及する前の日本では、ヒブによる細菌性髄膜炎が最も多く認められていました。肺炎球菌による細菌性髄膜炎はワクチン普及後も全体の20%を占める程度認められていて4)、重症になりやすく、命を落としたり重い後遺症が残ったりする3)ことから注意が必要です。

  • Q. 細菌性髄膜炎を発症すると、何が怖いの?

    A. 細菌性髄膜炎は、病気のはじまりが発熱や嘔吐など風邪の症状と区別がつきにくいので、早い段階で診断することがむずかしい病気です。また、耐性菌が増えているため、治療のための薬が効きにくいことがあり、最善の治療をつくしても、命を落としたり、重い後遺症が残ったりする場合があることが細菌性髄膜炎の怖さです。

  • Q. 細菌性髄膜炎にかかったとき、最初はどんな症状がみられる?

    A. 細菌性髄膜炎の初期症状は、発熱や嘔吐などカゼの症状とよく似ていて、特徴的な症状はみられません1,3)。経験のある小児科医でも、初期の段階で細菌性髄膜炎を発見するのはむずかしいといわれます。保護者のみなさんが病気を見分けることは困難ですが、以下のような症状がみられる場合で、いつもと違うと感じたときには、すぐに病院を受診しましょう。

    細菌性髄膜炎の可能性のある症状:
    急な発熱[高熱]、吐く・食べない・飲まない、ぐったりしている、意識がもうろうとしている、けいれん、泣き止まない・きげんが悪い など

  • Q. 細菌性髄膜炎にかかるとどうなるの?

    A. 細菌性髄膜炎にかかっても、早期に診断がつき治療薬の効果があれば、無事に退院することができます。しかし、重症化することも多く、発熱からわずか1日で命を落とす例もあります5)。 重症化の危険性は原因菌によってことなりますが、より重症になりやすいのは肺炎球菌が原因の髄膜炎です3)

  • Q. 細菌性髄膜炎にかかりやすい年齢は?

    A. 肺炎球菌やヒブによる細菌性髄膜炎はかかった子どもの約70%が0歳児で、2歳ぐらいまでの小さな子どもがかかりやすいとされています。 細菌性髄膜炎にもっともかかりやすいのは、病気とたたかう力[免疫力]が未発達な2歳ぐらいまでの小さな子どもです。細菌性髄膜炎は、年齢とともにかかりにくくなりますが、5歳ごろまでは危険年齢です。肺炎球菌が原因の髄膜炎は5歳を過ぎてもかかることがあります3)

  • Q. 細菌性髄膜炎にかかりやすい子どもの特徴は?

    A. 細菌性髄膜炎の原因となる肺炎球菌などの細菌は、ふだんから多くの子どものノドや鼻の奥にすみついているため、いつ、だれがかかってもおかしくありません1)
    子どもたちの20〜40%は鼻の奥の粘膜に肺炎球菌が常在していると考えられています6)

  • Q. 小児の細菌性髄膜炎を防ぐにはどうすればいい?

    A. 細菌性髄膜炎のすべてを予防できるわけではないですが、肺炎球菌結合型ワクチンとヒブワクチンで予防することが重要です。 乳幼児の細菌性髄膜炎は、原因となる肺炎球菌に対するワクチンで予防することが重要です。生後2か月から、遅くとも6か月ごろまでにはワクチンの接種を開始することが大切です。生後7か月を過ぎていても、小児の肺炎球菌による細菌性髄膜炎などの侵襲性感染症の予防を目的とした肺炎球菌結合型ワクチンは6歳未満まで接種できます。[※定期接種の対象となるのは5歳未満です。]ワクチンで細菌性髄膜炎を予防しましょう。

  • Q. 肺炎球菌結合型ワクチンは、いつごろから接種するの?

    A. 生後2か月から接種できます。 細菌性髄膜炎は、病気とたたかう力[免疫力]が未発達な小さな赤ちゃんがかかりやすい病気です。しっかりと免疫をつけるためには、生後2か月になったらできるだけ早く、接種を開始しましょう。

1)日本小児科学会:日本小児科学会の「知っておきたいわくちん情報」各論No.10-19,22 2018年3月-2020年10月作成・改訂
http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/VIS_B-02haienkyukin_202312.pdf  2023/08/15参照
2)国立感染症研究所:細菌性髄膜炎とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/404-bac-megingitis.html 2023/08/15参照
3)「細菌性髄膜炎診療ガイドライン」作成委員会編集:細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014(日本神経学会,日本神経治療学会,日本神経感染症学会監修),2014,南江堂
4)砂川慶介ほか. 感染症誌 84(1): P33-41, 2010
5)World Health Organization:Meningitis 17 April 2023
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/meningitis 2023/08/21参照
6)菅 秀:小児内科 vol. 52 増刊号:P848-852 2020

監修:東京医科大学 微生物学分野 
兼任教授 岩田 敏 先生

2024年9月作成 PRV45O003A